こちらスネーク

オレが帰宅の準備を始めた時、前方少し離れた所で部下と話していた"彼"が急に会話を終了へと持ち込むよう私の瞳には写った。ヤバス。これはシチュエーションとしては夢の中で、ほら、たまにあるじゃん、命を狙われ逃げ回るような、そんな感じ。彼に捕まれば最後、数時間に及ぶ拘束、そしてキチンと割りカンで飲まされるという(噂)。ここはなんとしてでもHookingされるずビルから逃げ出さねばならない。早々逃げ出した(連日フックされつづけた)先輩が急に憎らしく思えてきた。
オレは手早く身支度を整え、ボソボソっと「御疲れ様でっす…」と疲れた感を演出。まわりの誰とも目を合わせず歩き出した。『大丈夫、オレならやってのける』そう自分を励ましながらも明日、気不味くならないように自然な速度で、あくまでただ疲れて周りを気にしていない風を装いながら。背後から聞こえる音という音が、「やっと獲物を見つけたぞ」と喜んでいるように聞こえてならない。『大丈夫だ、まだ距離はある』。セキュリティのゲート(扉)を開き、通り過ぎると同時に残していた左手で扉に閉める力を加える。少しでも時間を稼ぎたい。
さあ、ここは11階。この4機のエレベータを用いて地上へ降り立たねばならない。しかし、エレベータはどの階にあるか…。最悪待っている間にも追いつかれかねない、いやそのリスクは十二分。例え一本早いエレベータへ乗ったとしても追いつかれる可能性もまた。では、トイレに篭るか?其処までおってこられたらどうする。まさに袋のネズミ。それに何より明日気まずくなる。
ここでオレの選んだ解答は喫煙所の隣にある非常階段、之だ。彼はオレがヤニを吸わないことは知っているはず(つまりオレがこっちへ来るってのは予想しにくいってコト)。それに彼は11階もの階段を下れるような"体型"をしていない(予想した所で追撃は不可)。もし、彼が1階で待ち受けていたとしても其処では圧倒的なイニシアチブをオレは握ることができる!(思いっきり自然に強烈な皮肉を投げかけるとかね) もう、完璧。
そういうワケでゆっくりと、いつもなら一段飛ばしで下る所、一段ずつ、携帯謎いじりながら1階にたどり着いた時、逃げ切ったという開放感に足ガクガクしてた。ま最後のは多分階段のせいだけど。